たくさん掲げられた触れ書きの前で、ため息をつく旅の僧があった。
今は昔、後の世に鎌倉時代と称される頃のことである。
「もし、お坊様。いかがなさいましたか」
と問う者が居たという。
「何年か前にこの地を訪れた時は、これほど多くの触れ書きは無かった。
世が乱れている証じゃな」
「それはどういうことでございましょう」
「法は少ない方が良い。
大元のところだけしっかり律して、のびのびと暮らせる世が良い。
細かいことままらぬ というのは、
法さえ犯さなければかまわぬ という風潮が出てきたのであろう。
良いことではない。
これからますます、世は乱れるのであろうよ」
旅の僧は、俗世にあっては権勢を持ち、
後に高僧となる人であったという。
とっても日本的な考え方です。
こういうのは、好きです。